帝劇で再演を迎えたミュージカル『ビューティフル』へ行ってきました。この日はWキャストの水樹奈々さんの初日。いつもの帝劇に比べると男性客の姿が多かったです。
2020年11月6日マチネ
キャスト
水樹奈々:キャロル・キング
中川晃教:バリー・マン
伊礼彼方:ジェリー・ゴフィン
ソニン:シンシア・ワイル
武田真治:ドニー・カーシュナー
剣 幸:ジニー・クライン
伊藤広祥:ドリフターズ/エンジニア/バンドメンバー
神田恭兵:ドリフターズ/エンジニア/バンドメンバー
長谷川開:ドリフターズ/エンジニア/バンドメンバー
東山光明:ドリフターズ/バンドメンバー/舞台監督
山田元:ニール・セダカ/ニック/ライチャス・ブラザーズ
山野靖博:ルー・アドラー/AD/ライチャス・ブラザーズ
清水彩花:マリリン・ウォルド/メイク
菅谷真理恵:Uptownシンガー/シュレルズ
高城奈月子:ルシール/シュレルズ
塚本直:ジャネール・ウッズ/シュレルズ
MRIA-E:リトル・エヴァ/シュレルズ
ラリソン彩華:ベティ/メイク
感想
キャロル演じる水樹奈々さん。生で聴くのは今回初めてでした。
なんというパワフルさ!キャロル・キング役に選ばれた事がひじょ~によくわかる圧巻の歌唱でした。
キャロル・キングの曲はただ綺麗に歌うだけでなく力強さが必要と感じたのですが、水樹さんは民謡をやっていただけあって、低音も高音も音がうねるような力強さがあり、「自分の生き様を歌うキャロル・キング」の姿がぴったり。
声量もすごいし、どの音域でも少しも音がぶれない。
私はこれだけ歌がうまいと、演技がいまいちでも許せてしまうのですが、その演技もとてもよくて、キャロルの「裏方としてやってきた60年代」「仕事も大事だけれど家庭も大切にしたい」と派手ではない一人の女性としての雰囲気が、自ら「生真面目」という水樹さんの雰囲気にとてもマッチしていました。
キャロルは飛び級するくらい頭も良いし、音楽の才能も飛び抜けているのだけど、人前で歌うのは躊躇していた女性。でも夫とのズレから始まった辛い経験を経て、裏方だけでなく自ら舞台に立つようになる。困難にまっすぐに立ち向かい、自分の持つ才能を自分の意志でより高めていっての、ラスト「Beautiful」を歌う水樹さんキャロルの喜びと美しさに涙があふれました。
舞台初日の挨拶で、水樹さんは妊娠して安定期に入ったことを伝えられ、会場は思わずどよめき、私もその場にいられたことを嬉しく思いました。それにしてもお母さんのおなかの中で赤ちゃんは、毎日すごい音楽を聞けて素晴らしい胎教ですねw
そしてキャロルの最初の結婚相手は伊礼彼方さん演じるジェリー・ゴフィン。
キャロル目線、女性目線からみると、腹が立つ男性ですw
でもこのミュージカル『ビューティフル』の特徴に、キャロルは一点の曇りもない「明るく正しく努力家」キャラクターに描かれ(プログラム参照)、一方、ジェリー・ゴフィンは曲作りのプレッシャーから薬に手を出し、浮気を繰り返し・・・と、伝記ものの作品で、主人公はキャロルとジェリー合わせて一人の人物像となることが多いかもしれない、と思うと、ジェリー自体の弱さも、ある意味愛しいなと思えたり。
まぁクズだなと思いましたが、ハンサムでこういう感じの役が伊礼彼方さんによく似合っていました。
キャロル&ジェリーのライバルで友人のバリー・マン役の中川晃教さん。シンシア・ワイル演じるソニンさんとカップル。バリー&シンシアも、キャロルたちと同時代のヒットメーカーであり、この2人が登場するだけで、音楽の才能がある!と思える説得力があります。
歌うシーンは多くはありませんでしたが、さすが中川晃教さん。喉が楽器のような人なので、同行した友人も「すごくうまい」と感心していました。ソニンさんの歌のうまさもいわずもがな。コミカルな演技がチャーミングで、バリー&シンシアはこの作品の清涼剤的な役割。舞台にいるだけで笑えて安心できました。
そして、この作品で最も感動したのは、キャストさんみんなの歌唱力!
大げさでもなく、全員、主役になれるくらいの素晴らしさです。
ミュージカル『#ビューティフル』数々のヒット曲を歌うスターたち……ショーシーンの主役はこちらのみなさんです!https://t.co/fGDZJS2maP#伊藤広祥 #神田恭兵 #長谷川開 #東山光明 #山田元 #山野靖博#清水彩花 #菅谷真理恵 #高城奈月子 #塚本直 #MARIAE #ラリソン彩華 pic.twitter.com/CiY3608J5z
— おけぴスタッフ(舞台系オンライン番組表 毎日更新中) (@okepi_staff) November 7, 2020
ドリフターズ、シュレルズ、ニール・セダカ、マリリン・ウォルド、ジャネール・ウッズ、リトル・エヴァといった歌い手扮するアンサンブルさんたちが衣装替えしながらヒット曲を歌ってくれる。
は~贅沢。
ミュージカル好きでも『ビューティフル』を観劇しなかった理由
キャロル・キングの自伝的ミュージカル『ビューティフル』は観劇した方々の口コミ評判が大変よくて、私自身も実際に観劇してみてストーリーも音楽もキャストさんの実力も大満足な舞台でした。
出演しているキャストさん全員の圧倒的な歌唱力と生演奏には身体がしびれる位で、初演の観劇を見逃してしまったことを後悔。
で、なぜ初演の『ビューティフル』を観なかったんだろうな~と思っていたのですが、恐らくミュージカル好きでもこの作品を観ていない人にもあてはまるのではないか、と思うのが次の2点。
①(日本人にはなじみの少ない)キャロル・キングの伝記ミュージカル
伝記ミュージカルのことを、バイオ・ミュージカル(伝記=バイオグラフィ)というらしいですが、「キャロル・キング」の名前は聞いたことがあっても、ではどんな人なのか知らない人もいるのではないでしょうか。私自身、なんとなく名前は知っていた程度で、代表曲は?と聞かれてもわからなかったです。
キャロル・キングはもともと歌手に楽曲を提供する作曲家で、彼女は多くのヒットソングを手掛けているのですが、いってみれば「裏方」な存在。
有名な曲は、それを歌う歌手の方が印象に残るので、舞台をみて「え!これもキャロル・キングなの?」と驚きました。
70年代に入りシンガー・ソング・ライターとして彼女自身も自分の楽曲を歌うようになったのですが、60年代に夫ジェリー・ゴフィンと共作で大ヒットさせた曲の数々は別の歌手によって世にでています。
例えばクィーンの伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」なら、知っているクィーンの曲が作品に流れると期待して映画館へ行くし、大ヒットとなった「ジャージー・ボーイズ」なら君の瞳に恋しているが聴けるだろうな、と思って劇場に行くし、「マンマ・ミーア」ならABBAの楽曲を身体に浴びれると期待できます。
でも、自分にとってなじみのない(と思っていた)キャロル・キングの伝記ミュージカルの場合、何を期待して良いかわからなかった、というのが正直なところでした。
②(なじみのない)60年代、70年代ヒットソング
これも①に関連してくるのですが、私にとってアメリカの60年代、70年代ヒットソングは、有名な曲は知っていてもなじみが少なかったです。
60年代の音楽シーンを題材にしたミュージカル「ドリームガールズ」、「ジャージーボーイズ」は好きだし、音楽を聞けば楽しめるんだろうなとは思っていても、例えば青春時代にでもこの時代の曲にはまった経験がある、というのでもなければ60年代、70年代の音楽を楽しむぞー!!という意気込みで劇場にむかうのはちょっと難しいかもしれない。
結局、自分にとってなじみがあるかどうかの話になってしまうのですが、ここら辺が自分が初演のビューティフルに行かなかった理由で、意外と他にもあてはまる人がいるのでは?と思った次第です。
私の場合、俳優さん目当てで行くよりも作品目当てで行くことが多いからかもしれませんが、自分のケースを考えると、逆に俳優さんファンは、自分の知らない世界を推しの俳優さんが見せてくれる、という貴重な体験ができるのだなとも思いました。
で、いろいろ書きましたが、結論として、ミュージカル好きな人はもちろん、音楽が好きな人であればめちゃくちゃ楽しめる舞台であったというのが、観劇した感想です。
キャロル・キングを演じる水樹奈々さん(Wキャストは平原綾香さん)の歌唱ももちろんありますが、キャロルが作った楽曲をアンサンブルの方々が歌うので、下手なキャストさんが一人もいない。最高にうまいのです。
ミュージカル『ビューティフル』で使われている楽曲(一部)
キャロル・キングの曲ってどんな感じなの?という人に、ミュージカル『ビューティフル』で使用されている曲を一部取り上げます。
ソングライターとして活躍した60年代の心浮きたつ楽曲、
ジェリーとの離婚後シンガー・ソング・ライターとしても活躍した70年代の曲
なんとなく60年代と70年代の曲で私は印象が異なるように思えました。
私は、70年代の「It’s Too Late」、「Beautiful」がとくに好きです。
The Locomotion(ロコモーション)
1962年リリース。作曲キャロル・キング、作詞ジェリー・ゴフィン。動画はカイリー・ミノーグバージョン。日本では伊東ゆかり さんがカバー。キャロルとジェリー夫妻のベビーシッターだったリトル・エヴァが子供をあやしながら唄っているのを耳にした夫妻が曲を書き、リトル・エヴァをデビューさせた曲で、ミュージカル『ビューティフル』では、リトル・エヴァ演じるMARIA-Eさんが最高にキュートな姿で歌います。
MARIA-Eさんは『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』で、あまりの上手さに驚き他の舞台もみたいと当時の感想に書いていました。念願かなって良かった♪
Take Good Care Of My Baby
キャロルとジェリーの共作。1961年リリース。1962年にビートルズがデッカ・レコードのオーディションを受ける際にも演奏されています。
Will you love me tomorrow
キャロルとジェリーの共作。ガールズ・グループ、シュレルズがオリジナル・リリースし、全米史上初のガールズ・グループのナンバーワン・ヒット。
劇中では、キャロルが歌う美しいピアノバラードバージョンと、シュレルズが歌うストリングスやコーラスを多用した華やかなバージョンが楽しめます。最初のピアノバラードバージョンを良しとしない、シュレルズたちの要求に応えようとする真摯なキャロルの演技が印象的でした。
Up on the roof
キャロルとジェリーの共作。歌はザ・ドリフターズ(The Drifters)。アメリカの音楽誌ローリング・ストーンの「ロックンロール歴史」特集で、歌詞の韻の踏み方が絶賛され、ローリング・ストーンが選ぶオールタイムベスト500に選出されている曲。
ドリフターズとして登場するのは伊藤広祥さん、神田恭兵さん、長谷川開さん、東山光明さん。
One Fine Day
キャロルとジェリーの共作。オペラ『蝶々夫人』のアリア「ある晴れた日に(Un bel di vedremo)」のタイトルから着想を得て作った作品。
It’s Too Late
1971年キャロル・キング作曲、トニー・スターン作詞。ジェリーと離婚後の1971年の曲。個人的にこの作品で1位、2位を争うくらい大好きな曲。60年代の曲とはガラリとかわった印象。ミュージカル『ビューティフル』では、後半ぐわーっと盛り上がる感じがしてそれもまた良かった。
You’ve got a friend
オリジナルはキャロルだが、ジェームス・テイラーバージョンも有名。感染症拡大の影響の中、ミュージカル『Beautiful』の各国キャスト80名がリモートで大合唱しています。日本からは平原綾香さんが参加。
Tapestry
1971年リリース。キャロル・キング代表作「Tapestry(つづれおり)」のタイトル・トラック。1972年のグラミー賞4部門受賞、現在まで2500万枚を超えるセールスを記録。
(You Make Me Feel Like)A Natural Woman
キャロルとジェリーの共作。アレサ・フランクリンのヒット曲。
Beautiful
キャロルがオリジナルだが、バーブラ・ストライサンドがカバーしたバージョンも大ヒット。ミュージカルのシーンでは、カーネギーホールでの演奏。ここまでキャロルが歩んできた道。困難に直面したときまっすぐぶつかってきたキャロルが「Beautiful」と歌う姿に、涙が止まらなくなりました。
So Far Away
最後にもってきたけれど、ミュージカルでは冒頭に歌われる曲。1971年の「Tapestry(つづれおり)」の収録曲。1995年にはロッド・スチュワートがカバーして話題になっている。今回、一緒にビューティフルを観劇した友人はかつてバンドでこの曲をコピーしたらしい。
おまけ:Oh!Carol(おお、キャロル)
幕が開いてSoFarAwayの次に歌われる、ニール・セダカのOh!Carol。ニール・セダカが高校時代にデートしていたキャロルにささげた曲です。このお返しのアンサー・ソングに、Oh, Neilを翌年キャロルはリリース。(夫のジェリーが補作詞)ニール・セダカのOh!CarolのB面に録音された「恋の片道切符」は、日本で大ヒット。
ニール・セダカの登場シーンがくすっと笑えて、ニール・セダカ役の山田元さんは、「好きだった同級生の女の子を歌にしちゃった」と雰囲気がにじみ出ていました(どういう表現だ)w
ミュージカル『ビューティフル』では、キャロルのライバルであり友人のバリー・マン(中川晃教)、シンシア・ワイル(ソニン)カップルのヒット曲も流れます。
キャロル・キング本人の歌や歌手たちの歌ももちろん良いのだけれど、ミュージカル用にアレンジされた曲を、生で劇場で浴びれるのも贅沢。
曲を追っていたら、またすぐに帝劇に行きたくなってきちゃったなぁ。。